「生きるとは、自分の物語をつくること」レビュー

またまた日が開いてしまったが、お盆休みで良い休暇を過ごせているのでこれを機に再開したい。

 

さて、今回のエントリは久々のレビューから。

お盆休みで9連休いただいているおかげで、今までため込んでいた本や映画と向き合える時間が増えた。そこで読んだ一冊を今回は取り上げたい。

 

生きるとは、自分の物語をつくること (新潮文庫)

生きるとは、自分の物語をつくること (新潮文庫)

 

 

少しばかり迷走していた時期に、偶然ネット経由で見つけた本で、小説家の小川さんと臨床心理学者の河合先生の対談本である。正直なところ名前をどこかで聞いたことあるような・・・といったレベルの認識であったが、小川氏は博士の愛した数式の作者であり、河合先生は心の処方箋の著者であった。対談本が出るくらいなので当然かもしれないが、両者ともに著名な方でした。

 

対談テーマはわりと曖昧なところがあったが、どうやらこの対談は、小川氏の作品、『博士の愛した数式*1に河合先生が興味を抱いて実現したようだ。そのため、対談はこの作品に対する河合先生のコメントから展開していく。 

内容は読んでからのお楽しみということで、以下では僕が気になった箇所を引用の上、コメントしていきたい。

 ※話は変わるが、前クールのドラマで堺雅人主演のDr.倫太郎*2を見ていたせいか、今回の対談のテーマがものすごくすんなりと理解できた。何事も経験しておいた方が良いと再認識できた一件。

 

 

◆器量について

(前略)

小川「その治る場に必要な、空気を、水を、先生が患者さんに供給されたということですね」

河合「それがわからないうちは、どうしても治そうと思って張り切るから疲れますね。その人のためを思って何かしようとするけれど、結果は良くないことが多い。でも、そういう時も越してこないと駄目なんでしょうね。初めから今みたいになれといっても無理で、やっぱり一生懸命治そうと思ったり、ウロチョロしたりする時が必要なんだと思います。

 若い頃、不登校の子に自転車で会いに行った時に、こんなことせんでもええ人は何もせんでええんやけど、今の僕の器量やったら仕方ない、そう思ったのを覚えています。」

※太字は筆者による

 対談の中で、河合先生は自分の力で患者を治すだけではなく、時には患者自身に気付かせることで(自分は直接的には関与せずに)治療することができるようになった、という趣旨の流れの中での発言である。

特に後半の太字部分、「経験を積めば必要ないが、今の自分のレベルでは必要」だと感じることは自分の仕事の中でも多々ある。

例えば、先輩であれば電話一本で済ませられることでも、自分であればそれほどの信頼関係・業務感覚の共有に至っていないため、担当者のデスクへ行って会話したり、その内容をメールを打ったりと、経験者と比して非常に多くのステップを踏まざるを得ないことは多い。一度、それが本当に必要なことなのかが分からなくなり、少しばかりの怠慢からステップを飛ばしてみたこともあるのだが、案の定失敗してしまった。

その経験もあり、河合先生の発言は非常にすんなりと受け入れられるものがあった。自分はまだまだ仕事を始めたばかりの身であることを自覚し、自分にあったステップを踏みながらも、より効率よくできる環境を整えられるように一歩ずつ精進していきたいと思う。

 

源氏物語の背景について

河合「いや、僕は女性だから書けたと考えています。なぜかというと、それぞれの時代にはその時代のスタンダードな物語があって、その物語は、男のためのものだったから。紫式部が『源氏』を書いた頃、男には出世していくという物語があった。(中略)女の人でも、身分の高い人には、スタンダードな物語があった。(中略)

 ところが、紫式部は身分としてそのスタンダードには乗れない立場なわけです。だけど、経済的な心配はない。財力がある、というのは大事なことです。そして平仮名がある。こういう条件の中で最初の物語ができたというのが、僕の考えなんです。あの頃は男は文章は全部漢文で書いていましたからね。」

 これは時代背景として納得いく話だったとともに、どのような条件があり、結果として源氏物語が生まれたか、という、数学的な発想が新鮮だったため印象に残っている。

その一方で、自分にとっての『物語』はどのようなものなのだろう?という問いも残る。元々、この本を手に取ったきっかけは、大げさに言うと「生きるとはなんだろう」という問いの一つの解を求めて手に取ったのだけど、変に先を見すぎてしまう自分にとっての解はまだ見いだせていなかったりする。(これが「サトリ世代」なのかもしれないが。)

 

アイデンティティーについて

河合「その次がもっとすごい。「われわれはああいうもの(ポルノ映画)を観ないという人生観の下に生きてきたんだから、東京であれパリであれ、観れば人格が崩壊する」って言うんです。すごい。」

 この話は河合先生がアメリカのプリンストン大学に行った際、学生との会話の中で出てきたようだが、西欧人(どこまでの範囲かはわからないが)は人格(アイデンティティーと読み替えてもよいと思う)を非常に厳格に持っており、自分の生き方にそぐわないものについては一切妥協を許さず切り離すようだ。(だからこそ対立が起きやすいのかもしれない。have a rispect)

上記引用箇所の後の対談でもあるが、日本人は西欧人のそれとは大きく異なり、曖昧な生き方をしているように思う。現時点では国内マーケットを相手に仕事をしているが、いつか海外に出ていった際には接し方等々について非常に気を付けていこうと思った一節。*3

 

簡潔なレビューになるが、こんなところで締めとしたい。

何かで読んだのだが、多筆で知られる作者先生に対し、「それほど速く・継続して書けるコツは何なのですか?」という質問をしたところ、「そもそも自分は良いものなんか書けないので、変にこだわりを持って作品を練り上げるのではなく、さっさと書いてしまうのである」という返答だったとのことだ。

僕も変に完璧主義にならず、曖昧ながらも取組むのが継続のコツなのかもしれないと思う今日この頃である。

*1:この本は読んでいないものの、映画は観たことがあったので、そういう点でも対談の内容にすんなりとついていけたのかもしれない。

*2:Dr.倫太郎のドラマの内容をザックリいうと、臨床医師の堺雅人が様々な患者を治療していく話だった。ザックリいうとこうなるが、おすすめのドラマである。

*3:自分をふり返ってみると、特に曖昧にしてしまう性格である。特に時間管理についてはめっぽう駄目だったが、最近では少しずつ改善の兆しが出てきているため、このまま継続していきたい。